【つなぎびと#2】生産者と消費者をつなぎ、持続可能で豊かな食の未来を築く「食べチョク」のこだわりとは?

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食の安全・安心や美味しさを求める消費者と、知恵を絞って生産物に付加価値を提供しようとする生産者。両者をダイレクトにつなぐプラットフォームとして成長を続けるのが、ビビッドガーデンが運営する産直通販サイト「食べチョク」だ。デジタルデザイン部の下條裕之が、代表の秋元里奈氏に創業の経緯、ビジネスを進める上でのこだわりなどを伺った。

なぜ畑は使われなくなったのか?農業の行く末を考えた

下條:NTT東日本は地域の活性化を重要なミッションとしており、私たちデジタルデザイン部は、社内を横断して新規事業の創出を支援したり、技術のデザイン・実装を支援する組織です。

第一次産業に関わることも少なくありません。2019年には、NTT東日本は農業関連の会社を立ち上げています。農業のさまざまな問題を理解し、ITで顧客課題の解決に寄与しようという取り組みの一つです。農業という点では、「食べチョク」のサービスとも何かの縁を感じます。
秋元さんはなぜ、農業を軸とした起業をされたのですか。

秋元:私は、相模原市で農業を営む家に生まれました。小さい頃は、畑で泥まみれになって遊んでいましたね。しかし私が中学生の頃に、実家は農業を廃業しています。もともと農業を継がなくてもいいと言われていたし、職業として農業との関わりを考えることはありませんでした。

大学卒業後は、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に就職しました。DeNAではマーケティングや営業として、いくつかの新規事業に関わりました。3年半の在職中に領域の異なる4つの部署を経験し、成長実感もあり、とても楽しかったのですが、自分がやりたい仕事をしているかというと、必ずしもそうとは言えなかった。

社外の異業種交流会に参加したときに、私の実家が農家だったという話から、そこでイベントをやることになったんです。実家に帰ってみたら、子どもの頃の実り豊かな田園が、雑草の生い茂る畑に変わり果てていたのです。いわゆる耕作放棄地です。

そこであらためて、農業の高齢化が進み、農地は持っているが農業をしていない「土地持ち非農家」が増えている現実を考えるようになりました。耕作放棄地も増えているのに、その新しい活用法もなかなか見いだせない。なぜこんなことになっているのだろう。そもそも、なぜ私の家は農業を止めてしまったのか、という根本的な疑問に突き当たりました。

下條:まさに日本の農業が抱える課題ですね。

秋元:農業の継続困難に陥っているのは、やはり中小規模の農家が多い。いくらこだわりをもって美味しい農作物を作っても正しく儲からない、収益を上げにくいという構造的な問題があります。

そのため、新規就農者も少ない。そうした構造を変えることができる仕事に取り組みたいと思うようになりました。


社内ベンチャーか、転職か——悩んだ末に“起業”を選択

下條:その後、ビビッドガーデンという一次産業に関わるビジネスを起業されますが、在職したまま、DeNAの新規事業として取り組む方法もあったのでは?

秋元:選択肢としてはありましたね。社内で新規事業として提案する、農業関係のベンチャーに転職する、週末だけ農業に携わる“週末起業”という3つの選択肢がありました。

ただし、そのいずれにも難しさがありました。新規事業を立ち上げるには、上司を説得できる合理的な理由と事業計画が不可欠です。転職するにも、私の思いに一致する会社があるかどうかわからない。

週末起業にしても、私は2つのことを同時に全力で取り組むことができない性格。平日の仕事に没頭していると、そこで全力を使ってしまい、週末に農業関連の仕事にきちんと向き合うのは無理かもしれない。

そういうジレンマに悩んでいた時に、起業している友人から「だったら起業したらいいじゃない」と軽く言われて、そういう選択肢もあったのかと気づきました。それまでは、自分が会社を起業することは全く考えていなかったのです。

下條:わたしたちもある意味、NTT東日本の中で新規事業を立ち上げる部署と言っても過言ではありません。大企業の中で新規事業を立ち上げるためには社内オーソライズや人材の育成など様々な課題があり、まさに実感をしていることろです。秋元さんは社内で新規事業を立ち上げるのと、起業するのとでは、それぞれメリット・デメリットがあると思います。実際に体験してみていかがでしたか。

秋元:社内新規事業の場合、事業計画が通れば、資金や人材面は会社に任せて、事業そのものに集中できると思います。ところが、起業するとなると、本来のビジネス以外のところ、例えば、資金調達・採用・会計といった役割も自分でやらなければなりません。

特に大変だったのは、人材採用ですね。DeNA時代は、「こういう人が欲しい」と人事部にオファーすればよかった。起業の場合は、自分で人材を募集して面接し、口説いていく。それこそ何カ月もかけて、思いを共有できるメンバーを集めなくてはなりません。

ただ、企業内で新規事業を提案するには上司や経営層を説得しなければならず、承認をえられなければ、諦めなくてはならないのですが、起業の場合はどう動くかは自由なわけですよね。事業ビジョンに共感してくれる人たちと出会うチャンスもあります。

私たちも最初は資金調達に苦労しましたが、事業ビジョンに共感して出資してくれる投資家に出会えた。そうした支援を得て、起業後2~3年の壁を乗り越えることできました。もし企業組織の中でやっていたとしたら、たぶん途中で心が折れていたと思います。

下條:私たちデジタルデザイン部も、これまでのNTTが強みとしてきた領域とは異なることを始めているのでとても共感できます。私自身はエンジニア出身なのですが、採用に携わったり、プレゼンス向上に向けたPR活動も慣れないながらも自分で行っています。

秋元:現在のDeNAはファンドを作って、社内外のスタートアップを支援する体制ができています。新規事業や兼業・副業など、企業の考え方も時代とともに変わっていくのでしょうね。

NTT東日本にデジタルデザイン部のような部署も生まれたのも、そうした時代の変化を意識されるようになったからだと想像します。


原体験、ITスキル、参入タイミング——「食べチョク」成功の3つの鍵

下條:ここからは、2017年夏にスタートした「食べチョク」のサービスについて聞いていきたいと思います。生産者と消費者をダイレクトにつなぐオンライン・マルシェのサービスですが、これまでの“産直サービス”との違い、強みは何ですか。

秋元:私の中では他サービスとは違うと確信している点が3つあります。1つは一次産業への強い思いです。実家の農業が廃業してしまったという原体験があることで、生産者のみなさんの信頼を得て、苦しい時も共に続けていける自信があります。

2つ目は、DeNAでITへの理解を深め、ITサービスの立ち上げの経験をしたという強みです。最新技術を活用し、ユーザーインターフェイス(UI)をたえずアップデートしながら、使いやすいサービスを提供すれば、十分やっていけると思いました。

3つ目は参入タイミングですね。今はメルカリに代表されるような CtoCスタイル、個人間の商取引が普通に行われている。実際、メルカリでも産直野菜が売られていますしね。

またオフラインでも、ファーマーズマーケットのようなものが注目されている。たとえ隣にスーパーがあっても、美味しいもの、いいものを探しに産直マルシェに人が集まります。

生産者と直接つながることで、安心を担保したいというニーズも確実にあります。このタイミングで事業を始めれば、従来の産直サービスとは違う新しいプラットフォームが築けるだろうと考えていました。

下條:ご自身が農業そのものに関わる事業を始める選択もあったのではないですか。

秋元:私は農家出身ですが、野菜の栽培のことは全くわかりません。新規事業を始めるにあたっては、未知の部分の変数をできるだけ少なくしていたほうがいい。食べチョクは栽培はできなくても、生産者のこだわりを届けることはできます。

そこには、DeNAでのサービス立ち上げ経験が活かせています。私にしかできないことを突き詰めていくと、やはりこの形になったのだと思います。

サービスの立ち上げ時は、生産者の信頼を得ることが最も重要でした。そこで、農業のことを勉強するつもりで、足繁く全国の農家の方々のもとに通いました。農作業をお手伝いしながら、いろんな話をさせていただきましたね。そのうち、他の農家の方を紹介してくださったり、食べチョクのサービスを応援していただけるようになったのです。


コロナ禍で “産直”は当たり前のビジネス&ライフスタイルに

下條:生産者とのつながりと共に、消費者とのつながりを作ることも大切ですね。ユーザーターゲティングはどうされましたか。

秋元:創業当初は、マルシェで有機野菜を買うなど、食材にこだわりの強いユーザーを対象にしていました。オーガニック食材を一つの条件にしていた時期もあります。

ただ、私たちが本来目指していたのは、オーガニックも含めたなんらかの付加価値のある生産物を届けること。農薬や化学肥料を使用する従来型の栽培(慣行栽培)でも、味にこだわっている生産者はたくさんいます。まずはこだわりの一つであるオーガニックに特化してサービスをスタートしましたが、1年前からはオーガニックを必須条件からは外しました。

それと共に、オーガニック食材にこだわるユーザー以外に、普段は近所のスーパーで買うけど、週末は産直の新鮮な食材でお料理をしたいというユーザーも増えています。

下條:新規の生産者の登録や生産物の流通量も、この1年で急増していると伺っています。その背景にはコロナ禍で、生産者や消費者の意識が変わったことも要因としてありますか。

秋元:たしかに、コロナ禍で生産者サイドの意識が大きく変わりました。コロナ前は、生産者にとって、個人向けの直販は「手間がかかるから優先度が低い」という意識が強かったと思います。

しかしコロナ対策の影響により、法人や飲食店などの得意先向けの売上が減り、これまでとは別の販路を開拓する必要性が出てきました。個人向けの販売を検討する生産者が増えてきたのも事実です。

一方、消費者側も、困窮する生産者を支える「応援消費」の一環として、産直サービスが再認識されてきました。応援したいという動機で購入したことをきっかけに、美味しかったから、サービスが使いやすかったからという理由でまた購入する。消費者の購入動機も変化しています。

コロナを一つのきっかけに、スーパーと併用しながら、産直も手軽に使うことが、当たり前になっていく。この流れはコロナが収束した後も、続くのではないでしょうか。


地域社会の底力は、ビジネスの持続可能性にもヒントを与えてくれる

下條:食べチョクは農産物だけでなく、魚の販売もしています。農家や漁業者、生産者とつながることで見えてくる、日本の一次産業の課題をどう受け止めていますか。

秋元:これは解決すべき課題というより、私たちが学ぶべきことなのですが、地方の生産者同士のネットワークや底力を感じることがよくあります。

例えば、野菜農家にとって、隣の野菜農家は競合ですよね。ところが、若手の農業者が隣のおじいちゃんの収穫を手伝うというような助け合いが、行われたりもします。

生産者さんたちは自分の農園だけがよければいいというのではなく、地域の力を底上げすることで営農を持続することが大切だと考え方もいらっしゃるのです。地域がダメになってしまったら、自分の農園も続かない。子どもたちにも受け渡せない。だから、販売のノウハウを伝授し合うこともしています。

私たちは昨年、食べチョクに「ご近所出品」という機能を追加しました。これは複数の生産者がグループとなって、共同で商品を出品するというもの。若手の農家が、「隣のおじいちゃんの野菜も一緒に出品したい」という思いを受け止めて実現しました。一次産業で深刻化する、高齢化問題への一つの対応例でもあります。

また、同じ地域のみかん農家とはちみつ農家が、生産物をセットにして販売する試みも始まっています。これは、地域に根づいている人々のネットワークがあるからこそできることですね。

地域のネットワークを活かし、一次産業に貢献していくという意味では、私たちにできることはまだまだあるなと思います。

下條:一次産業は一般ビジネスに比べると、時間軸が長く、射程が広いですね。種を蒔いたからといって、すぐ収穫できるわけではない。だからこそ、おじいちゃんの知恵や経験や若手の試みが合わさることで、長い時間軸の中で共に生きてくるのでしょうね。

秋元:例えば漁業で言うと、50年先も魚が獲れるように、今はみんなで協調して漁獲量をセーブするとか、そういう発想ですね。ビジネスの持続可能性を考える時、こうした知恵は私たちにもヒントを与えてくれます。

陸や海の豊かさを守り、そこから持続的に良いものを生み出す生産者を応援することは、結果的にSDGsにもつながると思います。フードロスを軽減することにも、貢献できているのではないかと。「生産者とともに、一次産業の課題を解決する」というビビッドガーデンのフィロソフィーは、SDGsの目標に適うものだと考えています。


地道なヒットを継続して打ち続ける——起業家としてのこだわり

下條:地域活性化を考える上では、地域内の人的ネットワークを理解する必要がありますね。私たちも慶應大学と共に千葉県の南房総エリアで地域活性化事業に取り組んでいます。現地のキーパーソンに協力を頂くために、現地NPO法人と協力しながらキーパーソンの方々と協力して進めています。秋元さんは、どのように地域のキーパーソンとつながりを形成しているのでしょうか。

秋元:食べチョクでも、率先して宣伝してくれる生産者さんやユーザーさんがいますが、最初からそういったことをやっていただいていたわけではないんですね。

ただ、コツコツとお付き合いを継続するなかで、だんだん食べチョクのファンになっていただけた。多少長い時間軸で捉えることが大切だと思います。

どんな事業でも、一発逆転のホームランというのはなかなか打てないもので、やはり、地道なヒットを継続して打ち続けないといけない。逆にそうやって築き上げた信頼関係も、ちょっとしたことから、一瞬で崩れてしまうこともある。

これは、経営者と従業員との関係、会社と社会の関係でも言えることだと思います。派手なことを打ち上げるのは簡単ですが、それで収益が上がったとしても一時的なものです。

それよりも、自分たちの目指すことを、何百回、何千回と繰り返し言い続けることが大切だと思います。そこはブレてはいけない。それが起業家としての私のこだわりの一つかもしれません。


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