【つなぎびと#4】ちょまどさんが女性エンジニアコミュニティ「Code Polaris」を立ち上げた真意とは?

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独学でプログラミングを学び、マンガ家としての才能も活かして、エンジニアと社会のつながりを広げてきた「ちょまど」こと千代田まどかさん。女性 IT エンジニアコミュニティ「Code Polaris(コードポラリス)」を立ち上げ、女性が安心して学べる環境を創るべく取り組んでいる。デジタルデザイン部の下條裕之が、コミュニティ立ち上げの想いやエンジニアを育てる秘訣などを伺った。

自分の描いた絵を共有したい。その想いがプログラミング学習を促した

下條:NTT東日本は、一般には電話やネットワークの会社と捉えられていますが、最近は通信分野以外にも事業を拡大させています。例えば、デジタル領域でAIやIoT、クラウド構築に関する事業もその一つです。今後はそうした新領域に関わるエンジニアをもっと増やし、育成していきたいと考えています。

文系出身ながら独学でコードを覚え、今はエンジニアコミュニティの中に入って、エバンジェリスト的な活動をされているちょまどさんのような人材が、私たちには必要な人材だと考えています。さらに、ちょまどさんたちが立ち上げた「Code Polaris(コードポラリス)」の活動にも共感するものがあります。

私は理系出身なんですが、大学ではプログラミングはほとんどやっていなくて、入社してから勉強しました。ちょまどさんは、どんなきっかけからプログラミングを始めたのですか。

ちょまど:大学時代に自分が描いたマンガやイラストを、みんなに見てもらいたいというのが動機ですね。マンガを公開する自分のWebサイトを作りたいという一心。そのためにはHTMLやCSSから始まる諸々を勉強する必要がありました。

そこからまずJavaScriptを学び、サイトに動きを付けたりしました。また、自分のサイトに掲示板や拍手機能(今でいう「いいね」機能のようなもの)を導入したくなって、PHP を勉強しました。無料で使えるレンタル掲示板などもあったのですが、無料で使わせていただけるぶん、バナー広告が出ていたので、私は広告無しのものを使いたくて、どうしたらいいのかなと調べたら、自作すれば良いということがわかり。また勉強して必死で覚えて(笑)。どんどんプログラミングの世界に、のめり込んでいきました。

下條:マンガというご自分の趣味があって、そのマンガを他の人にも見てもらいたかった、と。技術を習得するには、やはりそういう熱意が鍵になりますね。NTT東日本でもソフトウエア開発人材を進めており、学生時代からプログラミングを行っていなかった私のような人材の育成は難しいと実感しています。でも、プログラミングを学ぶのは大変だったでしょう。

ちょまど:女子大の英文科だったので、周囲に相談できる学生もいなくて孤独でした(笑)。ただ、Twitterを通じてたくさんのエンジニアと知り合いになり、いろいろ教えていただきましたね。

最初は彼らのプログラミングの話題に全然ついていけませんでしたが、必死で勉強するうちに、なんとか話題に参加できるようになった。私はエンジニアコミュニティに育てられたんです。だからいま、自分の仕事を通してその恩返しをしたいと思っています。そう、開発者コミュニティ恩返しをしたくて、今の DevRel (Developer Relations) のお仕事をしています。


暗号めいた文字列の意味が見えたとき、プログラミングの奥深さを知った

下條:わたしが最初にC言語でプログラミングを行った際は意味が分からな過ぎて本当に嫌になりました(笑)。ちょまどさんんは途中で、プログラミングが嫌になるというようなことはありませんでしたか。

ちょまど:当時はプログラミングの基礎知識が全くなかったので、勉強していても劣等感と焦燥感ばかり。なぜなら、当時Twitterで交流のあったエンジニアの方々は、コンパイラやOSを自作しちゃうほどのハイスキルで濃い人たちばかりだったんですよ。

皆さん小学生の頃からコンピュータに触っていたり、大学も当然のようにコンピュータサイエンスの学科だったり。皆さんツイッターでハイレベルなお話をたくさんされていました。だから、それが「普通」なんだと思い込んでいました。観測範囲のエンジニアが全員そのツイッター上の濃い方々しかいなかったので、「一般的なレベル」がそれくらいなのだと思っていました。趣味で自作言語や自作 OS を作るような方々。とても追いつけないなと。

私は入門書を読みながら勉強していたんですが、当時はまだ出てくる専門用語が全然わからないんです。例えば「コンパイラ」の意味がわからない。そこでググると、「高水準言語によるソースコードから、機械語あるいは元のプログラムよりも低い水準のコードに変換する」というように、高水準言語とか 機械語とまたわからない用語がわらわらと出てくる。

もう、頭がパンク状態ですよ。ひとつ調べると5個くらい分からないのが出てきますからね。スタックオーバーフローします。ワーキングメモリ足らなくなります。で、「すみませんググったんですけど〇〇が分からなくて」とツイッターで質問すると、みなさん、私の質問に親切に答えてくださいました。ただ、そのいただく解説が詳しすぎて、もっとワケがわからなくなることもありましたけれど(笑)。

下條:自分のコードでWebサイトがどんどん改良されていく、そこにも達成感を感じたんですね。わたしも、やはり自分が実際に手を動かしたものが形になるという成功体験は成長する大きなキッカケになると考えています。

ちょまど:最初はサンプルコードを全コピーしてましたけど、やはり自分なりにカスタマイズしたくなるんですよね。コードのどこを変えると、挙動が変わるか。それを一つずつ試していくうちに、プログラミングの沼にハマっていきました。

サンプルコードと格闘しているうちに、「なんでやたらスペースが多いんだろう」「そっか、コードの構造を見やすくするためなんだ」「へえ、インデントっていうんだ」「カッコの対応が分かりやすくなるね」というように、だんだん構造みたいなものにも関心を持つようになりました。

最初はただの暗号にしか見えなかったコードが、理解を深めるうちに、意味が見えてくる。一つの言語を覚えれば、他の言語も覚えやすいということもわかる。そうなってくると、絵を描くのと同じくらいにプログラミングが楽しい。職業としてもその分野に進みたいと思うようになりました。

下條:この記事を見てこれからプログラミングを学ぼうとしている学生や、NTT東日本の中で勉強を始めようとしているエンジニアは沢山います。これからプログラミングやソフトウェア開発を始める人のためのアドバイスとかありますか。

ちょまど:今は動画コンテンツが充実しているので、オンライン講義で基本を学ぶのもいいと思います。文章を読むだけでなく、講義形式で授業を受けて、かつ実際に手を動かす形が、頭の中にすっと入ってくるのではないでしょうか。


エンジニアコミュニティを盛り上げる秘訣は、リスペクトの精神

下條:ちょまどさんのエンジニアとしてのキャリアは、大手SIerに入社したことから始まったんですよね。

ちょまど:はい。文系・未経験者歓迎という募集要項に惹かれて、「システムエンジニア」職で入社しました。最初の仕事はプログラミングではなく、UI テスト要員。テスト対象の GUI のアプリケーションについて、指定された操作を行い、その結果の画面のスクショを撮ってExcelに貼り付ける仕事をしていました。たとえば、誕生日の入力フォームにひらがなの文字列を入れたら、バリデーションが走って、フォームの上に数字を入れてくださいって出るわけですが、それがちゃんと出ているのがわかるスクショを撮ってExcelに貼り付ける、みたいな形です。1日200枚くらい手作業で撮ってExcelに貼り付けていました。そのスクショを貼ったExcelファイルが「エビデンス」と呼ばれる納品物になるそうです。

UIテストを自動化するツールがありますが、当時は「作業を自動化しましょう」と提案すると、そのツールがちゃんと動くことを保証する「エビデンス」を出してください、と言われました。要するに、「エビデンス」作成を自動化するツールにも「エビデンス」が必要らしく、再帰的に「エビデンス」が必要になるのだな、と私は思いました。また、コードを書く仕事を任されるのは最低数年はかかる、という話も聞き、コードが書きたくて入社した私は体調を崩し、すぐに適応障害だと診断されました。

その職場自体はとても良いところでした。優しい方々に恵まれていましたし、残業も少なく、無限お菓子もあったし、人も環境もとても良いところでした。ただただ仕事内容が自分に合わなかった。「ああ、自分はダメだな」と落ち込んでいました。

でも、どうしてもコードをばりばり書くエンジニアになる夢は諦めきれない。そんな時、知人を通じて、スタートアップに転職しました。そこでは毎日ばりばりコードが書けて、自社プロダクトを開発し、とっても楽しかったです!

そこでプログラマーとして仕事をしながら、土日は副業でマンガを書いていたら、「プログラミング言語を擬人化したマンガを描いてほしい」とWebメディアの編集者からお声がかかって。そのマンガの連載をしていたメディアのイベントで出会った人に誘われたのが縁で、今の会社に転職することになりました。

下條:現在はアメリカの本社に所属しながら、日本でフルリモートで仕事をされていると伺いましたが、どのようなお仕事をされてるのでしょうか。

ちょまど:クラウド・デベロッパー・アドボケイトという職種で、当社のクラウド製品の認知拡大と、それを使うエンジニアたちのコミュニティをエンカレッジするという仕事です。

下條:実は私たちも、様々な組織に分散するAI技術者同士の情報交換を目的に、2019年から「AIサロン」という所属部署の枠を超えた社内コミュニティ活動を始めました。コーヒーでも飲みながら、気軽にAIについて語り合う場です。AIサロンをきっかけに社内のAI技術ノウハウが共有され、案件の相互支援や育成にもつながっています。AIサロンをもっと盛り上げていきたいと考えています。ぜひ、エンジニアコミュニティを盛り上げる秘訣を聞かせてほしいです。

ちょまど:色々ありますが、一番大切なのは、リスペクトの精神です。エンジニアの方々、クリエイターの方々、技術や知識を持っている方々、学ぶ意欲のある方々、皆さま総じて素晴らしいです。たとえば何か小さなアプリを作ったとかライブラリを作った、というと、その作品の裏には、その人の大きな努力や時間があるわけです。スキルや意欲を持った方々には努力や思考の歴史がある。素晴らしいことです。その「互いのリスペクトの精神」が大切です。

私にとってエンジニアコミュニティとは「共通の推し (技術) を持つエンジニア仲間」という認識です。共通の推しを持っているなら会話プロトコルは同じはずなので、みんなで仲良く学びあうことができます。

お互いに尊重し合う、inclusive な環境をみんなで創り上げられたら良いですね。


なぜ、女性エンジニア限定のコミュニティを立ち上げたのか

下條:NTT東日本としてはAIサロンをはじめとしたコミュニティ作りを始めていますが、私自身も開発内製化を推進するための「DXラボ」というバーチャル組織を作りました。「DXラボ」は内製開発推進の他にソフトウェア人材育成や、オフショア開発推進、国内海外問わないDX企業とのパートナリングを行っています。ソフトウェア開発という観点で似ている点があると思いますので、ちょまどさんが昨年から活動を始めた、女性ITエンジニアのための「Code Polaris」(コード ポラリス) についてもぜひお話を伺いたいです。

ちょまど:女性 IT エンジニアコミュニティ「Code Polaris」は、私と大平かづみさん、松井菜穂子さんの3人がオーガナイザーとなって、去年立ち上げたコミュニティです。現時点で既に 400 名以上の方に入っていただいています。

(図:CodePolaris 説明資料より Code Polaris meetup #5 – 活動報告 (slideshare.net))

この業界ではまだまだ女性のエンジニアが少ないですよね。私が最初に就職した会社も、新卒エンジニア同期約20-30人の中で女性は私を含めて2人だけでした。最初に同期の方々の集まる部屋に入った時に、先輩社員の方々含めほぼほぼ男の人しかいなかったから、女子高女子大出身だったのもあり、身がすくんでしまった記憶があります。実際、Code Polaris に入ってくれたメンバーさんで、職場にエンジニアの女性は自分一人しかいないので疎外感を抱いている、と言っている人も少なくありません。

また、私はエンジニア系のイベントに登壇することが多いのですが、やはりスピーカー、聴衆ともに女性比率は少ない。今まで登壇させていただいたイベントで、女性登壇者が私だけしかいないイベントもたくさんありました。

これでは私たちの後輩にあたる女性たちが、せっかくプログラミングに興味を持ってITの世界に入りたいと思っていても、躊躇してしまうと思ったんですね。

中高校生の将来就きたい職業ランキングでも、男の子だったら1位か2位にITエンジニアが挙がるのに、女の子は毎年圏外。すでにこの段階で、男女の意識のずれがあるんです。

IT エンジニアの女性比率がもっと増えて、ITの世界を安心して選べるような進路を示したい。もちろん女性限定のコミュニティは、本当は必要ない状態の方がいいんです。でも、今は過渡期。女性も安心して、プログラミングや仕事、それ以外のことも話せる場が必要だと思っています。

(図:CodePolaris 説明資料より Code Polaris meetup #5 – 活動報告 (slideshare.net))

下條:コロナ禍での創設は苦労もあったかとは思いますが、具体的にはどんな活動をされているんですか。

ちょまど:コロナ禍での創設ということもあり、メンバー全員とは顔を合わすことができず、Slack上やビデオ通話で雑談しています。最近は GitHub Discussions への移行も検討しています。

そこでは、たとえば、技術書の輪読会とか、リモートワーク下での育児の話とか、みんなで何かのプロダクトを作ろうというような話など出ています。

みんなでオープンソースで何らかのプロダクトを開発し、実績を作りたいですね。チーム開発を学ぶ場になりたい。そのコードレビューなどの過程を通して、お互いのスキルが向上していくことに期待しています。


コロナ時代だからこそ、リアルなコミュニケーションが欠かせない

下條:エンジニアの育成という点でも、自分が作ったという実績を作ることは大切ですね。私たちのDXラボでも基礎的な技術を教えた後は、実際に手を動かして簡単なものでも動くプログラムを作り上げることで達成感を感じることを大切にしています。

ちょまど:「Code Polaris」では、子育てと仕事の両立や、転職についての議論も行われています。「転職するなら役員比率3割以上女性の会社がいい」「女性比率が少なくとも2割以上のエンジニアのチームに入りたい」など、具体的な要望を挙げる人もいます。もっと人数が増えたら、コミュニティとしての立ち位置は崩さず、他の組織との連携なども考えたいですね。

下條:今はオンライン上でそうしたコミュニケーションを取っているんですよね。

ちょまど:本当はリアルでもみなさんとお会いしたいですね。

下條:オンラインで全てを完結できるわけではないから、どこかにリアルで対面する要素は残さないといけないですよね。これから社内でエンジニア、特に女性エンジニアを育成していくにあたり、ちょまどさんのキャリアはとても参考になります。

今後も、クラウド デベロッパー アドボケイトとしてのちょまどさん、あるいは「Code Polaris」の皆さんと接点を持ちながら、ソフトウェア人材育成に関してや、実際にプロダクト開発するなど、何か協業できたらいいなと思います。

ちょまど:「Code Polaris」は女性に限定していますが、コミュニティを応援してくださるのは大歓迎です。今後もぜひよろしくお願いします。

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