【つなぎびと#7】東急不動産・JT・NTT東日本の若手社員が「大手企業における新規事業・DX」現場のリアルを語る

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大手企業における新規事業やDXの専門組織の立ち上げが活発化している。既存の枠にとらわれない新鮮な発想や探究心を期待され、若手社員の登用も増えてきた。実際に新規事業を推進している若手社員は、どのようなミッションに取り組み、どんな壁にぶち当たっているのか。今回はデジタルデザイン部の浦壁沙綾がファシリテーターを務め、東急不動産と日本たばこ産業でDXを推進する若手社員に、その現状を本音で語ってもらった。

入社1年目、5年目、7年目──若手社員が取り組むそれぞれのDX

浦壁:私は、東日本電信電話(NTT東日本)に新卒で入社して、今年で5年目になります。2017年に入社後、配属されたのが電話の交換機など装置の保守業務。故障のアラームが出たら、すぐに作業着を着て車を運転して飛んでいく、ゴリゴリの現場業務でした。

現場でネットワーク知識を身につけた後で、3年目に現在のデジタルデザイン部に配属されました。NTT東日本がデジタル事業で新しい収益源を確保すべく、2019年7月に発足した部署です。

現在取り組んでいる主なミッションは3つあります。一つ目は、地域のお客様のDXを推進するためのサービス創出。二つ目が、こうしたデジタル事業のシーズになるようなものを研究所を含む社内の各部署から収集し、ノウハウを蓄積するという業務です。

さらに三つ目として、社内にDXに詳しいデジタル人材を増やすというミッションも持っています。実はこのオウンドメディアを立ち上げたのも、まずは私たちの取り組みを知ってもらうという狙いがありました。

ぜひ、廣瀬さん、岡林さんの取り組みも聞かせてください。

東日本電信電話株式会社 デジタルデザイン部 DX戦略担当 浦壁沙綾

廣瀬:私は、日本たばこ産業(JT)に入社して7年目です。新卒入社後、関連会社のベンチャー企業に出向し、新規事業を企画し、ファウンダーとして事業をグロースさせていく4年間を担当していました。その後JT本社の人事部に異動し、次世代の経営者育成やJTグループのタレントマネジメント機能の統合企画などに取り組んでいました。個人のキャリアと組織のパイプラインをどう繋げていくか、高い関心を持ちましたね。

現在の事業企画室では、社内のDXを推進しています。JTグループには大きく「たばこ」「医薬」「食品」という3つの事業があるんですが、その中のたばこ事業を担当し、DXに取り組んでいます。もちろんグループ全体を考えるコーポレート部門もあるのですが、事業自体をどうデジタライゼーションさせていくのかは、それぞれの事業部で考えていかなくてはなりません。

JTグループはコングロマリットカンパニーを標榜し、事業の多角化を進めてはいるものの、まだ9割程度がたばこ事業で占めています。JTで仕事をするからには、たばこ事業は必ず経験しておきたいと思い、以前からこのDXに携わりたいと手を挙げていました。

日本たばこ産業株式会社 事業企画室 たばこ事業DX担当 廣瀬理子氏

岡林:2021年4月に新卒で入社したばかりです。大学では医療社会学を専攻していました。病気や障害のある方とその家族の暮らしをよくするために、社会はどうあるべきかという研究ですね。配属前の面談で、リアルな場でテクノロジーを活用すれば、もっとそうした人々のライフシーンに寄り添えるのではないか、そういう事業に携わりたいと話したんです。それがきっかけとなったのか、4月に発足したばかりのDX推進部の配属になりました。現在は東急不動産のDX推進部と東急不動産ホールディングスのグループDX推進部を兼務しており、東急不動産のDXとグループ全体のDXを推進しています。

現在は、まず現場の課題をヒアリングしながら、DXで課題解決の支援をしたり、社員のDXに対する意識醸成に繫がる情報発信をしたりしています。また、全社横断で推進している業務効率化のプロジェクトにも参加しています。

東急不動産ホールディングスグループには、東急不動産、東急リバブル、東急ハンズなど幅広い事業分野の企業があり、多様なお客様接点、かつ多様なデータを持っています。それらのデータを有効活用して、お客様によりよい体験を提供するのが目標です。また将来的には、知的資産の活用による新たな事業領域の開拓も目指しています。グループ会社のDX事例を横展開するために、ホールディングスが勉強会を開催するという情報連携も加速しています。

東急不動産ホールディングス株式会社 グループDX推進部 岡林紗世氏



大企業で新規事業を創出するために出島を作り、小舟を漕ぎ続ける

浦壁:新規事業としてDXを進めるからには、企業カルチャーの影響も無視できないと思います。そこで聞いてみたいのが、それぞれの企業の文化にどんなイメージをもっているのか。例えば、NTT東日本は外部から見て、どんな会社だと思いますか。

岡林:あくまでも就活時のイメージですが、やはり「大企業」。でも、ガツガツした体育会系ではなくて、物腰の優しいイメージですね。

廣瀬:通信やネットワーク分野において、様々な技術が蓄積されているので、NTT東日本に相談すればなんとかなる。真面目で信頼できるパートナーという印象です。

浦壁:私も就活で、地に足がついた人が多い企業だという印象を持ち、入社を決めました。一方で、安定志向が強い面もあると感じています。その中でデジタルデザイン部は少し違った雰囲気なんですね。

初年度は27名と、NTT東日本としてはかなり少数精鋭で、多種多様な人材が集まってできた部署です。現在は55名体制ですが、その半数は新卒社員や中途入社者。NTT東日本の中に新しいカルチャーが生まれる予感を感じています。

デジタルデザイン部では、部長も交えてホワイトボードで議論し合うので、その場で「これでいこう」と決めることができる。これまで現場が意思決定を仰ぐためには、主査、課長、部長…というように、上長確認でかなり時間がかかっていました。これはNTT東日本内では特殊なのですが、皆さんの部署ではどうですか。

廣瀬:JTも堅くて、真面目な社風です。事業活動の効果・効率を磨き上げることで競争上の優位性を構築する、いわばオペレーション・エクセレンシーを重視する組織文化は根強いですね。ただ扱っている商品が、たばこという嗜好品ならではのカラーはあると思います。

何かを嗜むということは、個人の感性につながります。だからなのか、社員個々を見れば、自分の時間の過ごし方にこだわりがある人や、一緒に飲んでいて雑学話で何時間も話せる人、個性的で面白いキャラクターの人が多いですよ。

しかし、こうしたオペレーション・エクセレンシーな組織文化と、新しいことをやる新興部隊をどうやって両立させるのか、これは大きな課題です。DXは会社の風土にも関係するので、そこはコーポレート部門と話さなくてはいけない。たばこ事業自体のDXといってもセールスもあれば、マーケティングもあって、日本だけで見ても7000人ぐらい在籍している組織なので、各部署とは手順を踏んで話を通す必要があります。

とはいえ、デジタル領域は常に新しいことを学ぶ必要があるし、PoCに何度もトライし仮説検証を繰り返します。母船と同じスピードで動いていたのでは遅れてしまう。だから、小回りが効いて早く進める小舟のようなプロジェクトチームを作り、個々については国内たばこCEO直下で動くようにしています。組織文化の長短を考えながら、案件ごとにアプローチを変える。いわば両利きで進めるというのが目下のところですね。

岡林:東急不動産は、基本的にはボトムアップですね。例えば、経営戦略のような全社方針に関わる議論にも、1年目社員が参加できますし、DX推進部内でも部長を交えた会議で物事がすぐに決まる雰囲気はあります。

ただ、これが全社的なカルチャーかというと、部署によってスピード感の違いはあると思います。グループ会社との調整や、社内の他部署との合意形成に時間がかかるケースもあるので、時にはトップダウンで進めるほうがやりやすい場合もあると思います。



旧来の発想・慣行・規制を突破することで生まれるイノベーション

浦壁:DXを推進する部署はスモールスタートが多く、何よりもスピード感を求めるところは、どこでも共通しているのだと思いました。一方で、ボトムアップがいいのか、トップダウンがいいのかに正解はなく、DXを推進するためには使い分けが大事なんでしょうね。

皆さんが現在取り組んでいる業務について、もう少し具体的に話を聞かせてください。

岡林:DX推進部の取組みの一つに、ビジネスプロセスにBIツールを導入し、省力化を実現、ゆくゆくはその数値を事業における戦略やネクストアクションに活かすことを目指すというものがあります。ただ、東急不動産だけでもオフィス、商業施設、住宅、ホテルなど複数のアセットがあり、グループ会社に至っては、管理・仲介・小売など事業形態も様々です。それぞれビジネスモデルもカルチャーも異なるので、単純に横展開することはできず、現場にあった形でツールの在り方や指標体系を検討していくのは、大変です。

私個人としては社内発信を担当しているので、全社方針にDXを掲げた長期ビジョンの浸透を目指して、社内広報用のWebサイトでDXに関するコラムを毎月寄稿しています。先ほどのBIツールについても、BIツール導入によりどのように業務が改善されたのかを現場担当者にインタビューし、記事として掲載しました。ホールディングス傘下にはおよそ3万人の社員がいますから、広報担当と協力しながらコンテンツを作っています。

廣瀬:たばこ小売の現場では、リテールテックを導入した無人店舗など省人化の動きが進んでいます。ただ、未成年喫煙禁止法があるので原則として無人ではたばこを販売できないことになっています。タスポなどを活用した自動販売機は今ある販売チャネルの中では近しい存在ですが、自動販売機にも販売許可が必要であったりと様々な周辺ルールが存在しています。

有人対面で、購入者を目視確認しなければならない。これはリテールテックが進む現状を想定していない時代の法律なんですね。この法律を現代にどう対応させたらいいかを考えるプロジェクトを、社内の法人営業部隊や外部の小売店と共に開始しています。

世界の小売現場では、どんなリテールテックが導入されているのか。デジタルテクノロジーを活用した年齢認証はどのように行われているかといった現状を調べ、小さなPoCを始めようとしています。

規制のサンドボックス制度やグレーゾーン解消制度を活用しそこでPoCを進めることは、他の業界でも行われていることなので、そうした制度を利用して、新しいテクノロジーとそれに対する新しい法解釈のアップデートを進められればいいなと考えています。同時に、過去の二の舞にならないよう、新たな仕組みはたばこ販売だけにガラパゴス化させないことが重要です。

自社の立ち位置を理解した上で、世の中の流れに沿う形で、ビジネスを正しく前に進める。きちんとステップを踏みながら、それを計画的にやっていくのはすごく難しいことです。でも、難しいからこそ、チャレンジしがいがあると私は思います。

これからはどんな企業でも新しい事業やテクノロジーを展開しようとすれば、なんらかの法律や規制に触れざるをえないことが出てきますよね。長年にわたって、行政へのロビー活動を含めて、法律や規制と共に事業を展開してきたノウハウがJTには蓄積されている。そこは今後の強みとしたいところです。

浦壁:NTT東日本のデジタルデザイン部では、電話対応やスケジュール調整など、社内に共通の庶務業務を効率化するツール「マイバトラー」を開発しています。今後は外販化も考えています。そもそも私たちのミッションは、社外のお客様のDX推進をサポートするところにあります。コロナ禍でニューノーマルな働き方が注目されているなかで、こうしたツールの需要は大きいと考えています。

このプロダクトの発想は、カイゼン思考やデザイン思考とも違う、ビジョン思考の研修から生まれたもの。いわば妄想を駆動力にして新しいプロダクトや事業を創造するという方法ですね。前例のない取り組みなので、その価値を社内のステークホルダーに認めてもらい、巻き込んでいこうとしています。

新しい事業を展開する中で、新しい企業文化を共に醸成していく。ビジョンに共感してもらう仲間たちを増やすことが大切だと痛感しているところです。



外部企業とのコラボレーション。大企業が陥りやすい落とし穴とは?

浦壁:大企業が外部のパートナーと繫がる際に、気をつけなければならないことは何だと思いますか?

廣瀬:先日ベンチャーを経営する知人と話をする機会があったのですが、彼らは口を揃えて「最近は大企業とは仕事しない。パートナーはあえて中小企業を選んでいる」と言うんですね。なぜなら、大企業は意思決定に時間かかるから。

ベンチャーの立場からすると、自分たちが生きている時間の中で何回アウトプットできたか、どれだけ世の中を良くすることに貢献できたかが重要なんです。大企業のビッグプロジェクトで、何年もかけて1つ実現できるかできないかでは意味がないというわけです。世の中を良くするために、仕事の時間の使い方や、自分たちの立ち位置を真剣に考えてる人たちがいる。大企業は、まずそこを理解しなければなりません。

その上で、「我々はこういうビジョンを目指している、それを達成するための時間軸、バジェットは現段階ではこれぐらい。案件によっては増やせるかもしれない」というように、お互いにすりあわせることが大事。企業と企業がお互いパートナーシップを組む場合は、互いの期待値の調整をしていくところから始めたほうがいいと思います。

浦壁:ビジョンや方向感をすり合わせることの重要性は、私も感じています。一つの委託案件で、発注者と受注者、委託者と受託者みたいな主従関係、上下関係では本当の意味でのコラボレーションにならない。やはり一緒に走りながら、同じゴールに向かっていけるパートナーシップ、それが大事なポイント。同時にそれができるコアビジネスパートナーとどうやって出会うのかが、課題でもありますね。

岡林:東急不動産ホールディングスグループは、単にオフィスビルを建てていたり、ホテルを運営していたりするだけでなく、まちづくり、もっと言うと人々のライフスタイル全体に関わる幅広い事業体です。パートナー企業とコミュニケーションを重ねていくなかで、事前に想定していた協業可能性がより広がることもあるんです。

どういう接点を作れば、提携先の企業の成長に繋がるかという視点で考えると、想定にはなかったバリエーションに富んだ提案もできたりする。こうした気づきを促す双方向性のコミュニケーションこそが、外部企業とのコラボレーションのポイントではないかと思います。

廣瀬:まさに共感しますね。協業している間に、自分たちが携わっている事業以外の周辺領域も見えてくる、という話ですよね。外部環境はどんどん変わっていくけれど、ちゃんと共通の視点で捉えていれば、新しい事業の種が生まれてくる。議題に沿ってまっすぐ話し合うこと以外にも、いろいろなチップスが見えてくる。これが大事だと考えています。

今、オープンイノベーションとかいろいろ言われていますが、大事なのは「半歩先の未来」を一緒に描けるかどうか。何歩も先じゃなくて、半歩先のイメージですね。ここを共有できるパートナーが見つかると、ビジネスはどんどんスピードが出て、ドライブするようになる。しかも半歩ずつ進めば、未来は決して止まらないんです。

浦壁:お互いのやりたいこと、利益になること、Win・Winの取り組みになるためにはどうするか、ということですね。しかも、やりたい未来をずっと先に置くのではなく、半歩先に設定する。今日はお二人のお話を聞いていて、とても勉強になりました。これからもDX推進を軸に、何らかの形で協業できたらと思います。ぜひ今後ともよろしくお願いします。

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