【つなぎびと#10】ヤマト運輸中林紀彦氏に聞いた、大企業でDX推進するリーダーに必要な志向とは?

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変化の激しいビジネス環境において、多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する取り組みを開始しているものの、局所的な活動や一過性のプロジェクトに終わってしまうことも少なくない。その理由として、ITに対する経営陣の理解不足、既存システムの老朽化、デジタル人材の不足などが挙げられる。それらの課題をどう打破していくか。ヤマト運輸の執行役員でデジタルデータ戦略を担当する中林紀彦氏と、デジタルデザイン部の下條裕之が語り合った。

ヤマトのデータ・ドリブン経営を担うデータサイエンティスト

下條:NTT東日本ではデジタル事業を新たな事業の柱とすべく、2019年の7月にデジタルデザイン部を創設しました。AIやIoTなどのデジタル技術を用いて、社会全体の地域活性化を目指す組織です。私はその立ち上げメンバーとして参画しました。

私自身はもともとIoT系のエンジニアで、IoTという言葉がなかった10年ほど前からIoTに携わってきました。2019年にデジタル組織を創るというミッションのもと、立ち上げをおこなってからは事業計画などを行っています。

中林さんもデータサイエンティストから転じて経営に携わり、執行役員として経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を推進している点に共通点を感じています。まずは、現在のミッションや役割について聞かせてください。

中林:私がヤマトグループに入社したのは、2019年8月です。そこで、デジタルデータ戦略の策定を任されました。ヤマトホールディングスは、2020年1月に経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を発表。宅急便のデジタルトランスフォーメーション(DX)、ECエコシステムの確立、法人向け物流事業の強化の3つの事業構造改革とグループ経営体制の刷新、データ・ドリブン経営への転換、サステナビリティの取り組みの3つの基盤構造改革を推進しています。今は、まさにそのデジタルデータ戦略を実行している真っ最中です。

組織としては、2021年4月にヤマト運輸と主要グループ会社7社を1社に統合し、経営体制を大きく変えました。4つの事業本部と、その各事業を支援する4つの機能本部があり、デジタルサイエンスチームは、その中のデジタル機能本部に属しています。

主に、グループ全体のデータマネジメントやデータサイエンスなどデジタルデータ戦略に加え、クラウド関連やDevOpsなどのアジャイル開発の戦略もサポートしています。


ECエコシステムの構築から生まれた新EC事業者向け新配送商品「EAZY」

下條:データサイエンスチームだけではなく、グループ全体のデジタルデータ戦略をミッションに持たれているのですね。具体的には、どのようなDXに取り組まれているのでしょうか。

中林:ヤマトグループの創業は1919年。1976年に「宅急便」を開始し、現在の営業収益は約1兆7000億円で、昨年度の荷物取扱個数は約21億個です。荷物を運ぶためのフィジカルリソースと接点として、社員は約22.5万人、宅急便の事業所は全国に約3,700拠点を擁しています。

しかし、宅急便のビジネスモデルができてから45年以上経ち、IT化の遅れやグループ機能のサイロ化など、様々な課題がありました。そこで、経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」において、「3つの事業構造改革」と「3つの基盤構造改革」に向けた戦略を打ち上げたのです。そして、2021年4月から3年間の中期経営計画「Oneヤマト2023」を推進しています。

デジタル化の一つの象徴は、ECエコシステムの構築です。具体例の一つとして、EC利用者・EC事業者・配送事業者の全てをデジタル基盤でリアルタイムにつなぎ、購入・配送・受け取りの利便性と安全性、効率性を向上させるEC事業者向け新配送商品「EAZY」を2020年6月に提供を開始しました。

対面での受け取り以外に、ご自宅敷地内の玄関ドア前やガスメーターボックス、車庫や自転車のかごなど、生活者のライフスタイルに合わせた多様な受け取り方法を実現しました。

さらに、Doddle社と提携したEC購入商品の新たな受け取り・返品システムの導入や、オンライン診療の医薬品宅配など、新たな事業への展開も進めています。

●非対面での受け取りニーズの多様化へ対応する「EAZY」

2024年には2兆円まで売り上げを伸ばし、営業利益1200億円、ROE10%以上、そして4000億円の投資を目指しています。その中でも、デジタル分野では約1000億円を投資し、約300人規模のデジタル組織を作り、5つのデータ戦略を実施することでDXを進めています。


デジタル人材を集中採用して、現場配置するフランチャイズ組織

下條:ヤマトさんのような巨大戦艦の中で、それだけ大規模な経営構造改革を行うのは至難の業だと思います。特に経営陣とのコミットメントや、現場にデジタルを浸透させる上で、苦労された点やポイントについて伺いたいです。

中林:当社は、社長を含めた経営陣がデータ・ドリブン経営の必要性を理解し、実行・実現するという強い決意がありました。私自身も執行役員として権限と予算をもらっていたので、デジタルデータ戦略の策定や実行に関しては進めやすかったと思います。

アナログな現場にデジタルを浸透させるために行った事例としては、ファミレスのチェーンレストラン方式です。例えば、データサイエンティストを優秀な料理人、データサイエンスの活動をチェーンレストラン、本部をセントラルキッチンだとします。

優秀な料理人をセントラルキッチンで集中採用し、各店舗に分散させてその店舗のための料理を作ってもらう。セントラルキッチンには、メニュー開発や食材の集中購買などを行う権限と予算を与える。そして、スペシャリストの評価は、ビジネス貢献とその専門性の二軸で行う。そうしたリソースの集中と分散のバランスをうまく取りながら、組織と体制作りを行っています。

また、週に2日くらいの頻度で、メンバーのデータサイエンティストとディスカッションを行っています。

下條:私たちも新卒採用の中でデジタル人材をポジションとして配属したり、最近ではデジタルデザイン部においても中途採用を行って即戦力となる人材を自組織内に配属しています。ヤマトさんの優秀なスペシャリストを本部側で集中採用して、現場に配置するというのは興味深い施策です。採用はどのように行ったのでしょうか。

中林:スタートダッシュの時点で、短期的に会社を変えられる人たちを外部から集めることが重要です。私たちは、採用のためのオウンドメディア「YDX」を立ち上げ、ヤマトグループの戦略や活動を紹介しています。

また、ブランディングと認知向上を図るため、積極的な露出を図っています。

さらに、データサイエンティストなどのエキスパート人材の給与レンジを見直し、待遇も従来とは異なるジョブ型採用を取り入れています。

下條:この対談が掲載される「D³-ディーキューブ-」もデジタルデザイン部の取り組みを知ってもらうためにオウンドメディアとして立ち上げ、少しずつ反響が出てきているという状況なので、非常に参考になります。


全社員がデジタル人材になるために教育プログラムを立ち上げ

下條:NTT東日本においてもデジタル人材育成や、社内を変革する人材の育成にはとても力を入れています。御社では社内を変革する人材の育成や教育では、どんな取り組みを行っていますか?

中林:DX推進には、経営陣・スペシャリストを含めた全社員のデジタルリテラシーの底上げが重要です。当社は、全社員がデジタル人材になるための教育プログラム「Yamato Digital Academy」を立ち上げ、経営層やリーダー層の教育やスペシャリストを目指すためのDX育成カリキュラムなどを行っています。

このプログラムを通じて、Pythonの勉強を熱心にしている若手社員に出会いました。彼には、この4月から私のデータサイエンスチームに異動してもらい、Pythonを学んだスキルを活かしてもらっています。

また、現役の理系学生向けに、社会課題の解決をテーマに、これまで2回ハッカソンを開催しました。チーム開発の経験を得てもらうための取り組みです。

下條:一般的にはDXを推進する人材の育成に注力しがちだと思いますが、全社員がDXについての知識を得ることが重要ということは非常に分かります。やはり一部の人だけがDXを推進していても全社を変えることは難しいですので、少しずつでもマインドから技術スキルまで育成していくことが大切であると思います。

下條:今回のテーマである、大企業でDX推進するリーダーの取り組みと志向について、大変共感できるお話を聞かせていただきました。NTT東日本でもそうした環境や体制づくりに取り組んでいきたいと思います。ありがとうございました。

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