【つなぎびと#11】企業の情報システム担当はもう孤独じゃない ──エンジニアコミュニティ「corp-engr」運営者と語り合う

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「どのようにシステム企画を立てるのか」「ベンダーとはどう付き合うか」「経営層に予算獲得をアピールする方法は何がベストなのか」など。4,000名を超える情シスエンジニアが知見や悩みを共有し合う、情シスSlackコミュニティ「corp-engr」。会社の枠を超えたオープンなコミュニティはどのようにして始まったのか。大規模コミュニティ運営の苦労やこれからの課題について、デジタルデザイン部の橋本と下條が語り合った。

「corp-engr」参加者プロフィール

EugeneK(川崎)さん
客先常駐の情シスを中心に経験。現在は自社の情報システムを担当。

na2neko (長谷川真)さん
2000年頃「ビットバレー」と呼ばれたWeb系ベンチャー界隈でエンジニアを経験。
その後、人事や情シスを担当。

hikky(引田健一)さん
SI開発のエンジニアとしてキャリアをスタート。
その後、スタートアップ、中小企業の様々な情シスを経験。

okash1n(岡村慎太郎)さん
株式会社スタディストで情シスを担当。副業でコーヒー豆の自家焙煎・販売の会社を経営。
オンラインで参加。

「情シスSlack」はどう始まり、どうやって規模を拡大したのか

橋本:まずは、5,000人規模に達する「corp-engr」を運営されている皆さんが、どのようにコミュニティを立ち上げたのか。その成り立ちからお聞かせください。

na2neko:私は「corp-engr」の立ち上げメンバーなのですが、その当時は情シスになってまだ日が浅く、会社でも一人情シス状態なので、周囲に相談できる人が少なかったんです。ただ、Twitterで質問を呟くと、教えてくれる人がたくさんいました。

その一人である横山さんと「情シスの勉強会を開きたいね」という話になり、Twitterで募集したことがきっかけとなりました。最初は勉強会というよりは、顔合わせみたいな会合でしたが、5人ほど集まりました。

そこで「このメンバーでコミュニケーションを継続できる場所を作ろう」という話になり、Slack上にワークスペースを作ったことから「情シスSlack」が生まれました。2019年4月のことですね。

橋本:そこからどんどん増えていったと。会社も立場も違う人たちがSNSを通じて集まってくるのは、今の時代ならではですね。

EugeneK:私はna2nekoさんのTwitterでの呼びかけを見て、最初の勉強会に参加しました。客先に常駐したり、自社の中で情シスの仕事をしているのですが、社内に相談できる人がいない。会社の規模が小さく、サポートもなかなか迅速に受けられないという悩みもありました。

だから、システムのことを気軽に聞ける人と話したかったというのが大きいですね。


会社を超え、本音で悩みを語り合いたいというマグマが爆発

橋本:会社を超えて情シス同士で集まって話をしたいという欲求やエネルギーが、マグマのように溜まっていたんでしょうね。

na2neko:僕らが「情シスSlack」を始めた頃に、okash1nさんたちも「俺たちの情シス」というコミュニティで、ライトニングトークイベントを開催していたんですよね。

okash1n:他にも、「システム管理者の会」や「情シス互助会」といった情シスが集まるイベントがありました。

na2neko:ただ、いわゆる大手企業で大規模システムを運用している情シスの集まりが多かった。企業規模問わず、大規模システムから「ひとり情シス」まで、情シスが主体になって運営するコミュニティというのはそう多くなかった気がします。

橋本:hikkyさんは途中から参加し、今は主要な運営メンバーになったと聞きました。どういうきっかけだったのでしょうか。

hikky:私は勉強会をよく主催していたこともあり、エンジニアのコミュニティ作りには以前から関心がありました。コミュニティを主催していた経験や知見もあったので、手を挙げたんです。

情シスが会社を超えて集まることで、ベンダーとの関係性を向上するヒントが得られないだろうか。そうした思いもあって、運営に携わるようになりました。


「困っている人を助けたい」情シスコミュニティ運営の三原則

na2neko:実は「イベントの準備、手伝うよ」とか「自分も運営メンバーに入りたい」といってくれる人は多いんですよ。行動力が高い人が多い印象です。

hikky:情シスには、面倒見がいい人が多いイメージがあります。常日頃、ヘルプデスクで社員のサポートをしているからか、Twitterで何か質問するとすぐ助けてくれる。みんなが困っていたら、自分の知識を惜しみなく出す人がたくさんいます。

下條:そういう情シスのメンタリティは、面白いですね。

hikky:一つの質問に答えることで、自分の知識に対する再確認にもつながります。さらに質問をきっかけに様々な解法が示される。自分の知識も広がっていきます。社内の機密情報は出せませんが、可能な範囲で知見や事例を共有してほしいと思います。

橋本:コミュニティ運営で大切にされていることが三つあるそうですね。「敷居を低く」「関わり方は自由」「全ての意見を反映させない」。敷居を低くするために、申請制や招待制は採用していない。メンバーの行動をルールで強制することもしない。人数が多くなると意見が散乱してしまうため、全ての意見を反映させようとは考えないそうですが。

EugeneK:これは運営委員会で決めたものではないんです。イベントや日頃のコミュニケーションでは、そう心がけていますといった意図ですね。きっちりルールを定めるというやり方はしていません。


仮想企業のシステム課題を解決する「リーグオブ情シス」イベント

下條:Slackコミュニティでは、日々どんなお話をされているんでしょうか。

EugeneK:話題は多岐に渡ります。Windows、Macなど機種別の話題や、コーディングに関する部屋を作ったり、セキュリティについてとか議論したりもします。テクニカルな話だけではなく、例えばフリートークの部屋では、「パソコン梱包用段ボールの楽しいつぶし方」というライトな話で盛り上がっています。

hikky:okash1nさんが運営に参加してからは、「リーグオブ情シス」というイベントが始まり、今一番盛り上がっている話題ですよね。

okash1n:仮想の企業を設定し、現在の課題をヒアリングして、一定の予算を決めて解決するシステムを提案。25分間でプレゼンし、その内容を競うイベントです。情シスは、予算やスケジュール感を経営層にプレゼンすることが多いので、そのスキルを競うわけです。

仮想企業の規模別にスーパー(〜1,000名)、ハイパー(〜10,000名)、マスター(10,000名以上)という階級を設けています。スポンサー企業が優勝チーム全員に「PlayStation 5」をプレゼントしたこともありました。

挑戦者はスタートアップのひとり情シスもいるし、大企業でシステム担当する人もいる。それこそ大手SIerの人もいますね。審査では、僕が社長役でプレゼンに突っ込んだりすることもあるし、情シスのコンサルティング企業であるクラウドネイティブの齊藤愼仁CEOに出題内容を一緒に考えてもらうこともあります。これまで7回開催しています。

審査員も参加者も情シス界隈を盛り上げたいという気持が強いし、僕自身も登壇者の提案を聞くと、自分一人で課題を考えるより得るものは大きい。だから、無償であっても全然平気なんです。


情シスの社会的地位向上のために、カンファレンスを開催したい

橋本:今後の「corp-engr」は、どのような方向を目指しているんでしょうか。

hikky:情シスコミュニティとベンダーをつないで、製品価格などをオープンに公開してもらうといった試みはやりたいですね。中小企業の情シスでは、何でも問い合わせしないと値段が出てこないし、時間もかかる。社内の予算取りをするときは大変なんです。

okash1n:私は情シスのための、情シスによるカンファレンスを開催したいですね。

na2neko:顔見知りでないとSlackに書き込みにくいという配慮から、最初はオフラインのイベントをやっていました。利点はあるものの、地方の人が参加しにくいというデメリットもあります。コロナ禍でイベントもオンラインにしたことで、地方からの参加者がかなり増えました。カンファレンスもオンラインでやる選択肢もあるかもしれませんね。

ベンダーとの交渉力などを高めるために、「corp-engr」自体を任意団体にしたらという話も定期的に出ますが、タイミングは重要ですね。運営メンバーのモチベーションが上がったときや時間が空いたとき、もしくは何か新しい運営メンバーが入ったときなど、大きなイベントや組織替えは、そういうタイミングがいいと考えています。

EugeneK:Slackを立ち上げた時は、技術力が高い人や経験豊富な人が多かったのですが、コミュニティが大きくなると初心者も増えてくる。そこで、初心者向けのLT会を開いたこともあります。強い人だけがより強くなるのではなく、初心者の存在と底上げは今後も意識したいと思います。

na2neko:情シスの社会的立場を向上させるためには、企業経営層の理解を促進させることが大切です。経営層の理解がないために、IT予算が取れないのが、情シス最大の悩みですから。日本では他社がやっていないことや、前例がないことが、予算獲得の上で壁になってしまうんですよね。

hikky:システム投資は、その会社がどんなビジネスをしているか、経営層が何を考えているかで大きく違ってきます。売上規模が小さいために、例えばセキュリティを強化した方がいいと進言しても「予算がないからできない」で終わってしまう。たしかに、セキュリティだけ強化しても、売上が上がらず、会社が潰れてしまったのでは本末転倒。そのバランスに、情シスはみな悩んでいます。

na2neko:情シス出身の経営者が少ないのも課題ですね。これはCIO不足やCIOの権限といったIT業界全体の問題にもつながる話ですけれど。

橋本:その点は同感ですね。企業は競争に勝つために、他社がやっていないことやITを駆使して、頭抜けていかなければならないのに。今日は情シスの皆さんの本音トークが聞けて、大変参考になりました。皆さんをサポートできることがあれば、ぜひ協力したいですね。

下條:Slackで日々交流を重ね、オフラインでも発信しているエンジニアコミュニティのお話は刺激的でした。これからは人とのつながりを、より大切にしていきたいと思います。皆さん、ありがとうございました。

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